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福井地方裁判所 昭和41年(ヨ)269号 判決

申請人 滝俊幸 外一名

被申請人 株式会社福井新聞社

主文

一  申請人らが、いずれも被申請人に対して、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二  被申請人は、申請人滝俊幸に対し、昭和四〇年一一月二一日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金四五、八〇〇円、申請人小木曾美知子に対し、同年九月二五日から本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り金二二、七〇〇円の各割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一当事者双方の求めた裁判

申請人等は、主文同旨の裁判を求め、被申請人は、「本件申請を却下する、訴訟費用は申請人等の負担とする。」との裁判を求めた。

第二申請人の主張

(申請の理由)

一  被申請人は、日刊新聞の発行を主たる業務とする株式会社であるところ、申請人滝は、昭和二八年から、申請人小木曾は、同三七年から被申請人会社に雇われ、それぞれ労務を提供していたところ、被申請人は、申請人等に対し、いずれも書面をもつて、同四〇年九月二四日限り、申請人小木曾を、同年一一月二一日限り申請人滝を、それぞれ解雇する旨の意思表示をなし右書面はその頃いずれも申請人等に到達した。(以下本件各解雇という。)しかして、右各解雇当時、申請人滝の賃金は、月額四五、八〇〇円、申請人小木曾の賃金は月額二二、七〇〇円であり、いずれも毎月二五日払の約定であつた。

二  ところで、本件各解雇は、次のような経過を経た後なされたもので、結局申請人等が正当なる組合活動をしたことを理由とするものであるから、右解雇の意思表示はその効力を生ずるに由なく無効である。

(1) 申請人両名は、被申請会社の従業員で組織する福井新聞労働組合(以下組合という。)に加入し、昭和三八年八月以来現在まで、申請人滝は、組合の執行委員長を、申請人小木曾は、組合の執行委員兼婦人対策部長を勤め、組合の中心的存在であると同時に、申請人滝は、昭和四〇年六月には新聞労連北信越地方連合会の委員長、同年一〇月には、福井地区労働組合協議会の執行委員に選任され、申請人小木曾は、同三八年九月から福井県労働組合評議会婦人部幹事を二期勤めた後、同四〇年八月には、福井県労働組合評議会婦人部長に選任され、両名ともこの地域における労働組合運動の中心的存在である。

(2) 組合は、同四〇年六月三日夏季一時金として従業員一人当り一〇万円の支給を被申請会社に要求したが、被申請会社は同月一五日組合に対し、前年同期の妥協額五六、五〇〇円、同業他社の妥協額約八万円を下まわる三万円という回答をなし、しかも同月二一日の団体交渉においては、一五日には承諾していた組合主張の一率分三〇パーセント、基準内賃金スライド分七〇パーセントという配分方法を、一方的にくつがえしたうえ、組合分裂の武器となる全額査定制を主張したのみならず、被申請会社社長は、右席上において、「従業員の半分を人員整理すれば一時金も倍額になる。将来はベースダウンもあり得る、年末などいくら出せるかわからない。」等と発言し、団体交渉における信義を踏みにじつた。

(3) しかして、被申請会社は、同月二八日、当時組合執行委員婦人対策部長であつた申請人小木曾に対し、懲戒解雇、組合副執行委員長であつた川野二高に対し、けん責処分の予告を行つたが、その理由は、申請人小木曾については、同人が当時争議中であつた株式会社福井放送において、同社の組合員に過激思想の誇示宣伝を行つたとか、素行が不良であるとか居住アパートの家賃を滞納したとかであり、右川野については、同人が社員たる身分に不相応な強酒をたしなむなどを理由とするものであり、およそとるにたらぬ処分理由であつて右処分理由そのものが、被申請会社の真意が前記夏季一時金獲得斗争における申請人等の組合活動を嫌悪し、組合の組織破壊を意図したことにあることを推測させるに充分であつた。

(4) 右のような経過のうちに、被申請会社は、同年七月一日、組合員三九名に対し、出社せず自宅で待機すべき旨の業務命令(以下自宅待機命令という。)を発令した。右自宅待機命令が、夏季一時金獲得斗争の中で、組合の活動と組織の崩壊をめざし、あわせて首切りによる企業合理化を目的としたものであることは、自宅待機命令対象者中に組合の執行委員長である申請人滝、副執行委員長川野二高、書記長土久碇司を始め、執行委員五名ほか、職場委員、青婦部役員等及び組合役員経歴者など約三〇名の組合活動家と目される者が含まれていたこと、自宅待機命令の対象者中、組合を脱退し、後述の第二組合に加入した者一三名については、翌二日、直ちに自宅待機命令を解除していること等の事実に照らして明白である。

(5) 組合は、同月一日、被申請会社社屋外で緊急集会を開いたが、被申請会社は、既に帰宅した者を、業務命令によつて、半強制的に社屋内に連れ込んで、右集会への出席を妨害したのみならず、以後、約五日間にわたり、従業員を男女を問わず、社屋内に軟禁し、半強制的労働を行わせた。

(6) しかも、被申請会社は、翌二日早朝、その社屋内に軟禁した右従業員約七、八〇名を指導援助して、福井新聞第一労働組合と称するいわゆる第二組合を結成させたが、右組合結成に際し、被申請会社は、第二組合結成のため、被申請会社のジープを使用して従業員を集め、その結成式は会長室で行わせたばかりでなく、右第二組合のビラ、ニユース等の発行は、被申請会社の用紙、リコピー印刷設備等を使用させまた第二組合には被申請会社の小会議室を組合事務所として使用させながら、半面、組合に対しては書記局の明け渡しを要求する等第二組合に対する露骨な支配介入、経理援助を行なうのみならず、組合に対しては有形無形の圧迫を加えた。

(7) 被申請会社の右のような組合分裂の策動に対抗して、組合は、同日午前八時、全面ストライキに入り、翌三日午前二時被申請会社業務に従事する組合員を平和的に説得する方法により、被申請会社の出荷業務を阻止しようとして、被申請会社社屋のあるビルデイング前に、整然とピケツトを張つたところ、被申請会社はピケツトを張る組合員に対し、頭上からフライヤーの火の粉をふらせ、新聞の梱包をこれに投げつけ、梱包をかかえた職制及び第二組合員をして、体当りをもつて、組合員に突進させたりする等して、混乱状態を招き、一方予め要請により待機中の警察官約二五〇名の出動を求め、組合に対し刑事弾圧を企てた。

(8) 同年八月六日、福井地方労働委員会は、別紙(四)記載のとおりの斡旋策を労使双方に提示したので、組合は譲歩してこれを受諾したが、被申請会社は、組合破壊のためにこれを拒否し、同月九日、それまで自宅待機命令を発せられていなかつた組合員全員に対しても更に自宅待機命令を発令した。

(9) もつとも、被申請会社は、同月二〇日、組合員全員に対する自宅待機命令を解き組合員に出社を命じたが、出社した組合員を前記第二組合員と差別して、組合員を原職につかせないばかりでなく、組合員に対しては、職場へ立ち入ることまで禁じ、全員を空部屋となつている五〇四号室に収容し、仕事を与えず、「お前等の仕事はこの部屋に座つていることだ」と発言した。

(10) 同月二一日、被申請会社は、懲罰委員会を開いて、同月二六日、組合に対し、九月二日付で申請人滝、同小木曾、申請外土久を解雇、その他の組合員全員である四七名に対し、いずれも無期限懲戒休職処分を発令する旨の予告をした。

(11) これに対し、組合は、被申請会社との後記労働協約第一七条に基づき、被申請会社に対し異議の申立を行い、処分理由に対する疑問点を被申請人に提出し、これとの協議を求めたが、被申請会社は、その協議が完了しないのに、同年九月二四日、申請人小木曾外一名を解雇、五名を無期限懲戒休職処分、三名を三箇月の懲戒休職処分に処し、更に同年一一月二一日、申請人滝外一名を解雇、二四名を無期限懲戒休職処分、一三名を三箇月間の懲戒休職処分に処し、もつて組合員全員に対する懲戒処分を行つた。

(12) 右の経過によれば、本件各解雇は、明らかに、昭和四〇年度の夏季一時金獲得のため、申請人等が正当な組合運動をしたことを理由にした不利益処分であり、いわゆる不当労働行為であつたことを推認するに充分であり、解雇の意思表示は、その効力を生じ得ないというべきである。

三  仮に本件右解雇が不当労働行為に該らないとしても、前記労働協約一七条には、組合は、会社が行なう人事その他に異議があれば、異議申入をすることができる旨、会社は右申入を受けたときは公正な態度で組合と協議する旨、および解雇に関する異議については組合の同意を得て処置する旨が、各定められ、前記のように、組合は、被申請会社に対し、同条による異議申入をしたのに、被申請会社は、組合の同意を得ないままに本件各解雇にたちいたつたから、右は、前記労働協約第一七条に反し、この点においても、本件各解雇の意思表示は、無効である。被申請人は、申請人等の右主張をもつて同意権の乱用であるというが、申請人等に同意権の乱用をもつて目される事実はない。

四  しかして、申請人等は、いずれも資産はなく被申請会社から受ける賃金をもつてその生計を維持してきた労働者であるところ、すでに右解雇の意思表示がなんらの効力を有しない以上、申請人は、被申請人に対し、なお従業員としての地位を有し、労働契約上の権利を有するというべきであるから、被申請人において申請人等に対する賃金の支払を拒んでいる主文第一項掲記の日から本案判決確定にいたるまで、被申請人は、申請人等に対し、各同項記載の金員をこれが賃金として支払うべきであり、しかも、申請人等において被申請人からその支払を受けられない時は、その生活に窮することも自明であるから、申請人等は、本件仮処分を求めるため、この申請におよんだ。

(被申請人の主張する解雇理由に対する答弁)

被申請人が後記不当労働行為の主張に対する反対事実の項で主張する同一(1)に記載した事実は否認する。

同一(2)記載の事実中、申請人小木曾が、当時、福井放送株式会社のテレビニユース編集の業務に従事していたこと、同社が組合と労働争議中であつたこと、同小木曾が五月一七日に、同社の従業員に対し、労働者のあるべき姿について話をしたことは認めるが、その余の事実は知らない。

同一(3)記載の事実中、当時有限会社共栄タクシーで労働争議のあつたこと、及びその争議を申請人小木曾が支援したことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。

同二(1)乃至(3)記載の事実中、被申請会社社屋前で組合がピケツトを張つたこと、福井県労働組合評議会が、福井新聞の不買運動を推進することを決議し、これを実行したこと、同評議会がビラ貼り、ビラ撒き、宣伝カー等による情宣活動をしたこと、及び組合が被申請会社社長宅付近で宣伝カーによる放送をしたことは認めるが、その余はすべて否認する。

第三被申請人の主張

(申請の理由に対する答弁)

申請の理由一記載の事実は認める。

同二(1)記載の事実中、滝及び小木曾が、組合に加入し、組合活動を行つていたことは認めるが、その余の事実は知らない。

同二(2)記載の事実中、組合が夏季一時金として一人平均一〇万円の要求をしたこと、これに対し、被申請人が三万円の回答をするとともに配分方法につき全額査定制を主張したことは認めるがその余の事実は否認する。すなわち、被申請人が三万円の回答をしたのは被申請会社の決算内容が赤字であつたためであり、配分方法を全額査定制に切り換えたのは、被申請会社従業員から社長に「働く者も、働かない者も不品行を重ねている者も一律にボーナスが当る方法はやめてほしい」旨の訴が、相次いだからであつて、組合の分裂をねらつたものではない。また、団体交渉の席上における被申請会社社長の発言は、「決算が赤字である以上、多額のボーナスは出せない。要求額通り出せというのなら、従業員の半分にしか出す資力はない。しかし、社長としてこのようなことはできない。」と述べたものを、組合が曲解したものである。

同二(3)記載の事実中、被申請人は組合主張の各処分予告をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同二(4)記載の事実中、被申請会社が、申請人主張のように自宅待機命令を発令したこと、一三名の者に対し自宅待機命令を解いたことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、被申請会社は、かねてより新聞製作工程、事務分野の人員配置の適正化の研究を進めてきたので、自宅待機命令により適正人員配置のテストをしたにすぎないものである。従つて、特に組合活動家のみを対象としたものではなく、作業能率及び質の最も低下していたものの中から、三九名を選出したところ、そのうち三〇名が組合員であつたにすぎない。また右の一三名に対し、自宅待機命令を解除したのは、組合が突然ストライキに入つたため、右テストが不可能となつたからである。

同二(5)記載の事実中、組合が緊急集会を開いたことは知らない。その余の事実は否認する。

同二(6)記載の事実中、福井新聞第一労働組合なる新組合が結成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、新組合は同三九年の夏季一時金斗争の頃から、組合執行部の独断的斗争方法、経理の不明確さ等を批判していた一部組合員がその自由意思によつて、結成したものであり、被申請会社はこれにジープを使用させたこともない。もつとも新組合の申し入れにより、結成大会会場として社屋五階ホールを貸し与え、事務用品を売却したことはあつたが、これらは、いずれも有料であつた。また従来の労使の慣行として、一時的に小会議室を会議用の室として右新組合に貸し与えたことはあつたが、これも右慣行に従つたに過ぎない。

同二(7)記載の事実中、組合が、ストライキに入つたこと、被申請会社の出荷業務を阻止しようとしてピケットを張つたこと、警察隊の出動があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同二(8)記載の事実は、組合破壊のためという点を除き、いずれも認める。すなわち被申請会社が、斡旋案を拒否したのは、斡旋案の四項が組合が争議に名を藉りて、違法な行為をしたことを不問に付するもので、妥当を欠くからであり、自宅待機命令を発したのは、従業員の配置換え、ストライキに対する社員感情等の社内問題解決のための猶予期間を持つことにつき組合の了承が得られなかつたからである。

同二(9)記載の事実中、自宅待機命令を解き、出社を命じ、出社した者を一室に集めたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同二(10)および(11)記載の事実は認める。

同二(12)記載の主張は争う。

同三記載の事実中被申請会社就業規則に申請人主張のような定めがあることは認めるがその余の主張は争う。すなわち、被申請会社は、昭和四〇年八月二七日から同年九月二一日までの間、六回にわたり、協議を重ねたところ、申請人等を含む組合は、後記新聞の不買運動、発送阻止、申請人小木曾の素行問題等について被申請人から証拠を出されたにもかかわらず、これを全面的に否認し、その余の事実についても、正当な行為であるとの主張を繰り返すだけで、右の協議は、水掛論に終始したので、このような組合の所為は、結局組合が、労働協約に定められた同意権を乱用したものと解されたから、被申請会社は、本件各解雇につき組合の同意を経なかつたにすぎない。

同四記載の事実は否認する。すなわち、申請人等は、現に失業保険の給付を受けているばかりでなく、他にも相当の収入を得ているから、その主張は理由がない。

(不当労働行為の主張に対する反対事実)

一  被申請人は、申請人等に次に述べるような行為があり、これは懲戒解雇事由に該当するので、この理由により、申請人等を懲戒解雇に処すべきところ、申請人等の将来を考え、普通解雇をなしたものである。

(1) 申請人小木曾は、入社当初より本件解雇に至るまでの約三年間、素行が悪く、申請人滝を始め、男子従業員をかわるがわる自己の部屋に宿泊させて、社内の風紀を乱し、また自己の居住する部屋の家賃や電燈料等を延滞して、被申請会社の社員としての体面を失墜し、被申請会社の信用を毀損した。

(2) 申請人小木曾は、昭和四〇年五月、当時、被申請会社と福井放送株式会社の間に結ばれた業務協定に基づき、同社が放送するテレビニユースの編集業務に従事していたところ、同社が、同社労働組合と争議中で、最少限度の人員で営業を続けており、同社の主たる営業である放送事業の特質上、一名の従業員が欠けても、放送が中断する虞れがあつたのに、同月一七日、同社労働組合員とともに、就業規則により禁止されている勤務時間中の組合活動を行い、勤務中の同社報道課員及び美術部員に対し、組合運動に参加しなければならない旨の発言を繰り返し、同人等を職場から離脱させて、同社に損害を与えようとしたが、右小木曾の行為が原因で、被申請会社は、同月一八日、福井放送株式会社から業務協定を破棄され、被申請会社の信用を毀損されたのみならず、現在に至るまで、一箇月当り百数十万円の損害をこうむつている。すなわち、被申請会社と福井放送株式会社との業務協定は、被申請会社がその発刊する福井新聞夕刊四面に週一回福井放送株式会社の番組広告をする見返りとして、福井放送株式会社はそのテレビニユースに「福井新聞ニユース」のクレジツトを流すというものであつたところ、右業務協定が破棄されたことにより、福井放送株式会社はテレビニユースからクレジツトをはずすにいたつたが、被申請会社は、右福井放送株式会社と他の新聞社が同趣旨の業務協定を結ぶことを防止し、且つ、破棄された右業務協定を復活することを望んで、右福井新聞に週一回の番組広告を掲載しつづけているので、そのため、右広告を掲載しなければ当然得られるであろう一箇月一〇〇万円を超える広告料相当の損害をこうむつているのである。

(3) 申請人小木曾は、同四〇年七月二五日、被申請会社組合員二六名と共に、折柄労働争議中の福井市下荒井町二一字淵上一番の二、有限会社共栄タクシーの従業員であつて非組合員である金井稔外四名が、争議中であるのに各運転稼働していたため、その運行を阻止しようとして、手分けして客を装つて同人等の運転稼働する自動車に乗り込み、右各運転者を脅迫して、同会社日の出営業所まで運行させたうえ、各自動車を実力をもつて車庫内に格納して、同社に対し多大の損害を加えるとともに、被申請会社の信用を毀損した。

二  申請人小木曾については、右一の項に記載するような事由があるが、なお申請人滝及び同小木曾は、次に述べるとおり、争議行為に名を藉りた違法な行為を企画、立案、指導、実行し、被申請会社の業務を妨害するのと同時にその名誉信用を毀損した。

(1) 申請人滝及び同小木曾は、昭和四〇年八月二日午前八時から、翌三日午前三時頃までの間、被申請会社社屋正面(南側)及び裏側新聞発送口(北側)一帯及び新聞発送用自動車の通路、その他道路や敷地内に組合員を含む約五〇〇名のいわゆるピケ隊を並ばせ、被申請会社の新聞発送に際し、新聞輸送車の前に右ピケ隊員を座り込ませたりしたばかりでなく、被申請会社社屋内の自転車を無断で持ち出して、バリケードを造つたりなどして、被申請会社発行の同月三日付福井新聞の出荷発送を阻止したのみならず、被申請会社が、違法なピケツトに対し警告書の交付や、スピーカーでの説得を行つたにもかかわらず、出荷発送しようとした新聞の梱包を十数個奪い、梱包を解いて、新聞を破つたり、踏みにじつたり等して、被申請会社の商品としての新聞を毀損した。

(2) 申請人滝及び同小木曾は、同四〇年七月七日、福井労働会館において、福井県労働組合評議会傘下の五五組合代表者等のした福井新聞の不買運動を推進する決議に基づき、県民一般及び福井県労働組合評議会傘下の組合員にあてた「福井新聞を読まない運動に協力して下さい」と題するビラ(別紙(一)記載の内容)を配布するなどの方法により、同日から本件各解雇の日まで、被申請会社の発行する右福井新聞の不買運動をなし、被申請会社及びその傘下の新聞販売店に、莫大な損害をこうむらせた。

(3) 申請人滝及び同小木曾は、同年七月上旬から解雇の日まで「県民の皆様に訴えます。」「首切りをやめろ。真実の報道を守れ。」「県民のみなさまに福井新聞の暴挙を訴えます。」等と題する別紙(三)のような内容のビラを街頭で配布し、或いは飛行機を使用してこれを頒布したばかりでなく、電柱、芥箱、塀等にこれを貼つたり、或いは宣伝カーを使用して同様趣旨の放送をする等して、もつて被申請会社及びその社員の名誉を毀損した。特に、同月一四日から一六日までの間に、被申請会社社長宅門前路上において、被申請会社社長の家族に対し、宣伝カーのマイクを使用して脅迫的な言辞を弄したり、同月一七日午后七時三〇分頃には、同所において「会社の編成局長青園謙三郎、同次長前田将男は、財界の有力者某氏の後押しで、組合員を挑発して、ストライキや不買運動をやらせ、会社を窮地に追い込み、社長に詰め腹を切らせようとしている。」旨無根の事実を放送した。

第四証拠関係〈省略〉

理由

第一争いのない事実

申請人滝が、昭和二八年、同小木曾が同三七年被申請人に雇われ以来労務を提供していたところ、被申請人は、昭和四〇年九月二四日、申請人小木曾を、同年一一月二一日申請人滝を、それぞれ解雇する旨の意思表示を書面をもつてなし、その書面が、各申請人等にその頃到達したこと、当時、申請人等の賃金が、それぞれ申請人等の主張のとおりであつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

第二不当労働行為の成否

一  解雇理由

本件各解雇がいわゆる不当労働行為に該当するか否かを考えるに、被申請人は、申請人等は、就業規則に照らし懲戒解雇に処すべき事由があつたが、申請人等の将来を考えて、普通解雇したというのであるから、まず、被申請人主張の解雇理由の有無について考える。

(申請人小木曾に対する解雇理由について)

(一) 素行不良の点について

証人前田の証言により成立の認められる乙第一号証の七及び証人前田の証言によれば、申請人小木曾は、昭和三七年三月に、被申請会社に入社した頃から、異性関係について不品行な噂があり、申請人滝とも友人関係を越えた男女関係があつたこと及び自己の居住する部屋の賃料や電灯料を滞納したことがあることが認められるが、異性関係について右認定以上に具体的事実があつたこと及び申請人小木曾が右行為により被申請会社の信用を毀損したことについては、これを認めるに足る疎明はない。右によれば、申請人小木曾と同滝の関係が職場の秩序維持の上から好ましからぬものであつたことは否み難いから、同小木曾はこの点につき、被申請人から責任を追及されてもやむを得ない。

(二) 業務協定破棄の点について

申請人小木曾が、昭和四〇年五月当時、福井放送株式会社と被申請会社との業務協定に基づいて、同社が放送するテレビニユースの編集業務に従事していたこと、同社が当時労働争議中であつたことは当事者間に争いがなく、証人前田、福田の各証言により成立の認められる乙第一号証の八及び証人前田、福田の各証言及び申請人小木曾本人尋問の結果を総合すると、被申請人は、その主張するような内容の業務協定を福井放送株式会社と締結していたこと、同年五月一七日、福井放送株式会社は、その社屋を閉鎖し、一部組合員を社屋外へ閉め出し、一部組合員を社屋内に入れて、放送業務を継続していたところ、申請人小木曾が、同社屋内で働く報道課員及び美術部員に対し、「貴方達の行為は、労働者として間違つている。社屋外にいる組合員と行動を共にして、会社と対立すべきである。」との趣旨の発言をしたこと、福井放送株式会社が右小木曾の行為を理由に、業務協定を破棄する旨の意思表示をしたことが認められ、証人前田の証言により、成立の認められる乙第三六号証の一乃至三によれば、昭和四二年一一月現在において、右業務協定が実施されるならば、被申請人側の負担は、九二四、〇〇〇円相当であり、福井放送株式会社側の負担は二、一五二、〇〇〇円相当であるから、右業務協定の実施により、被申請人は右現在においては月一、二二八、〇〇〇円の利益を得られる計算になるから、右業務協定の破棄により、計算上は右利益分と同額の損失を被ることになることが認められる。しかし、申請人小木曾の行為により、福井放送株式会社の業務が妨害されたとの点、同小木曾が同社従業員に職場を離脱させたとの点及び福井放送株式会社が、被申請会社の一従業員にすぎない申請人小木曾に右のような行為がみられたことから、直ちに右業務協定を破棄しなければならない状況にあつたとの点については、これを認めるに足る疎明はない。従つて、申請人小木曾が右行為を行つたからといつて、ただちに問責されなければならないものでない。

(三) 有限会社共栄タクシーの営業妨害の点について

申請人小木曾が、昭和四〇年七月二五日頃、有限会社共栄タクシーと同会社労働組合との間で行われた労働争議に際し右組合の争議を支援したことは当事者間に争いがないが、申請人小木曾が右会社の非組合員の運転稼働するタクシーに客を装つて乗り込み、運転手を脅迫して、車を車庫へ格納させた等被申請人主張のような事実を認めるに足る疎明はない。

(申請人等に対する共通の解雇理由について)

(一) 本件争議に至る経過

申請人等に対する共通の解雇理由は、いずれも、組合の被申請会社に対する争議行為中のものをとらえたものであるから、初めに、本件争議に至る経過を認定する。

(1) 前記争いのない事実、成立に争いのない甲第二号証及び証人岩永の証言によれば、次の事実が認められる。

すなわち、組合は、昭和四〇年六月三日、被申請人に対し同年の夏季一時金として、組合員一人平均一〇万円、配分方法、基準内賃金スライド七〇パーセント、一律三〇パーセント、支給日六月三〇日、その他退職金改定、結婚資金の要求等を記載した要求書を提出し、これに対し、被申請人は、同月一五日、夏季一時金は、組合員一人平均三万円、配分方法、基準内賃金スライド七〇パーセント、一律三〇パーセントなる回答をした。ところが、同月二一日の団体交渉の席上において、被申請会社社長は、同月一五日に回答した一律配分方法は撤回して、組合がかねて反対していた全額査定制を主張すると同時に、「会社の経営は苦しいから三万円以上の回答をするには、従業員の削減をしなければならない。このままでゆけば、将来はゼロ回答もあり得る。」との趣旨の発言をした。

以上の事実が認められ、右認定に反する疎明資料はない。

(2) (イ) 争いのない事実、成立の争いのない甲第三号証、証人岩永の証言及び申請人小木曾本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

被申請人は、同年六月二八日、組合に対し、申請人小木曾を同年七月五日付で懲戒解雇処分に、組合員小島朝江を始末書提出の上、三箇月間の懲戒休職処分に、組合副執行委員長川野二高を始末書提出の上けん責処分に各処する旨の予告を、書面をもつてなし、右書面は、組合執行委員長であつた申請人滝に到達した。右各懲戒処分の理由は、申請人小木曾については、本件において被申請人の主張する申請人小木曾だけに対する懲戒解雇理由と同趣旨であり、右小島については、個人的な金銭貸借により、被申請人の営業面の信用を著しく傷つけ、新聞販売部数の増加を阻害し、もつて、被申請会社に損害を与えたというにあり、右川野については、度々、被申請会社社員たる身分を越えた強酒に親しんで一般公衆に迷惑をかけ、被申請会社の信用を失墜したばかりでなく、飲酒の結果約三箇月間欠勤し、同じ職場の同僚に不必要な労働を甘受させる結果となり、よつて、被申請会社の職場秩序に重大な悪影響を与えたというにあつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する疎明資料はない。

(3) (イ) 争いのない事実、成立に争いのない甲第五、六号証、第八、九号証、第二〇号証の一、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一〇号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一乃至四、第一四号証の一乃至三、及び証人岩永、田畑の各証言を総合すると次の事実が認められる。被申請人は、同年七月一日午後四時三〇分頃、従業員三九名に対し、「当分の間、各自の勤務時間を自宅で待機し、その時間内に、四時間以上自宅を離れる場合は、被申請会社にその旨の連絡をせよ」との趣旨の業務命令(以下第一次自宅待機命令という)を発した。右第一次自宅待機命令の対象者三九名中には、申請人滝を始め、主要な組合活動家三〇名が含まれていた。被申請会社は、右自宅待機命令の発令と同時に、申請人滝に対し、従来組合に貸与していた組合事務所を三箇月以内に明渡すよう書面をもつて請求し、同日夕方頃から同日の深夜にかけて、被申請会社職制をして、電話や車を使用し、従業員の確保にあたらせ、集つて来た従業員を、被申請会社会長室に集合させ、被申請会社社屋外へ出ることを禁止した。翌二日午前一時頃、右会長室に隣接する社長室から、被申請会社の従業員である坪川常春が現われ、従業員等に対し、「今度、福井新聞第一労働組合執行委員長を引き受けることになつた。」等と挨拶して、予め決定していた新組合役員を発表し、いわゆる第二組合が結成された。その後、同日午前一〇時頃から、被申請会社社屋内に右第二組合の書記局が設置され、専用の電話も設置されたうえ、第二組合の発行する組合ニユースには、被申請会社の用紙が用いられ、リコピーの器械および活字が使用された。前記第二組合の副執行委員長湯浅三郎は、職場で会社の業務に従事せず、書記局から会長室、社長室等に出入りしていた。

以上の事実が認められ、他にこの認定を左右する疎明はない。

(ロ) しかして、以上認定の事実によれば、第一次自宅待機命令は、組合の夏季一時金斗争を弱体化する目的で発せられたこと、いわゆる第二組合は、坪川、湯浅等一部の従業員が、被申請会社からの援助を受けて結成されたものであることを推認するに充分である。

(二) 新聞発送阻止の点について

(1) 成立に争いのない甲第一一号証、証人前田の証言により成立の認められる乙第一五号証の一乃至七、証人岩永、田畑、山本、前田の各証言及び申請人小木曾本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

組合は、同月一日緊急集会を開き、翌二日、被申請人に対し、同日午前八時から、無期限ストライキに入る旨の通告をすると同時に、福井県労働組合評議会に支援を求めた。同評議会の事務局長田畑は、被申請人会社社長に対し、同日午後二時頃から、再々電話で団体交渉を開くように要請したが聞き入れられず、同日五時頃、同評議会傘下の労働者に対し、被申請会社社屋周辺に集合するように指令を出し、組合員及び支援労働者が合計五〇〇人位集つて、被申請会社社屋前で抗議集会を開き、その間も、なお団体交渉開催の要求をした。

福井県労働組合評議会及び組合は右抗議集会により、被申請会社社屋内で働く者等に対し、労働を拒否するよう説得し、その限度で新聞の出荷を阻止しようとし、或いは被申請会社に団体交渉を開催させようとした。そうこうするうちに、新聞の発送時間が迫り、被申請会社の新聞の発送を請負つている業者も到着し、右業者の雇人のうちには、集会をしている労働者に対して、赤インクをかけたりするなど集会を開いている者との間に多少の諍があつた。その頃から、抗議集会に参加している労働者中に、新聞の発送を阻止しようとする気運が高まり、スクラムによるピケツトが張られ、一方、被申請会社は、ピケツトを解くように要請したが、組合側は、右発送を阻止するため自転車を社屋前附近に並べるなどしてこれを聞き入れなかつた。三日午前二時頃から、新聞の出荷が始つたが、これに際し、被申請会社は階上からマグネシユームを焚いて、ピケ隊に向け火の粉を浴せると同時に、新聞をばら撒いたり、厚さ約三〇センチメートルの新聞の梱包を投げたりして、その状態を写真に撮影した。一方、ピケ隊の中にも、新聞の梱包を解いて新聞を踏みにじつたり、新聞輸送車の前に寝ころび或いは坐り込みをするなどした者もあつた。このような混乱状態が約八分間続き、その間新聞の発送は阻止されたが、被申請会社の要請により約二五〇名の警察官が、右現場に到着したので、福井県労働組合評議会の事務局長田畑は、ピケツトを解くことを指令し、ピケツトは直ちに解かれ、予定された新聞の発送は行われた。右抗議集会中及び出荷に際し申請人等は右現場において、田畑等とその行動を共にした。右認定の事実を認めるに足り、これを覆すに足る疎明はない。被申請人は、申請人等が、当初から被申請人の新聞発送を実力をもつて阻止しようと企画立案したと主張するが、右主張を認めるに足りる疎明がない。

(2) 右認定によれば、申請人等は、当初、被申請会社社屋前で抗議集会を開き、被申請会社社屋内で働く労働者を説得することにより、被申請会社の新聞の発送を阻止しようとしたに止るものであつたが、右集会に参加している労働者の間に、実力をもつてしても、新聞の発送を阻止しようとする気運が高まつたのであるから、申請人等は、現場の指導者として、これを制す義務があつたにもかかわらず、何らの制止行為にでることなく、実力をもつて約八分間にわたり、新聞の発送を阻止する結果を惹起せしめたのみならず、労働者をして相当多数の新聞を踏みにじつたりするなどの行為にいでさせたことが認められる。しかして、日刊新聞の発行を主たる業とする被申請会社の新聞発送を、実力をもつて阻止することが違法であることは多言を要しないから、申請人等は、被申請人から、右行為現場における指揮者としての責任を追及されてもやむを得ない。

(三) 新聞不買運動の点について

(1) 成立に争いのない乙第一一号証の二、第二五号証、証人前田の証言により成立の認められる乙第七号証の一、第九号証の二、三、証人山本の証言により成立の認められる乙第九号証の一、四、五、乙第二四号証の一乃至三九、第三〇号証の一乃至六、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第八号証の一、証人岩永、田畑、前田、山本の各証言、申請人小木曾本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると福井県労働組合評議会傘下の組合代表者は、同月七日、別紙(一)記載のようなビラ及び別紙(二)記載のようなはり札を作成し一般公衆に対し、或いは街頭で、或いは各戸別(福井新聞購読の有無を問わず)に、右ビラ及びはり札を配布したり、別紙(一)記載のようなことをマイクで呼びかけて署名運動をしたり、同評議会傘下組合員が、その友人知人等を説得したりする等の方法によつて、福井新聞の不買運動を推進することを決議したこと、右決議には、組合代表者たる申請人等も加つていたこと、同日以後、同評議会傘下組合員により右方法による新聞不買運動が推進されたこと申請人滝も右方法による新聞不買運動を実行したことが認められ、また弁論の全趣旨によると、同評議会傘下の組合員中には、別紙(二)記載のようなはり札を戸主の承諾なしに戸口に貼つたり、戸別訪問の際これに多少の威圧を加えて新聞購読を断らさせたりした者もないではなかつたことが推認される。(申請人小木曾が新聞不買運動を実行したと認めるに足る疎明資料はない。)右認定に反する申請人小木曾の供述は信用しないし他にこれを覆すに足る疎明資料はない。

(2) ところで、日刊新聞の発行を業とする会社の組合が別紙(一)記載のようなビラ及び別紙(二)記載のようなはり札を作成し一般公衆に対し、街頭等で前記のようなビラ及びはり札を配布し、マイクを使用して署名を求め更に組合員がその友人知人を説得したりするなどの方法により新聞の不買運動を実施することは、それ自体は、いわゆる第一次ボイコツトの範囲内にあつて、争議行為としては適法であると解すべきであるから、前記(一)(1)乃至(3)に認定した経緯により、組合と被申請会社が対立争議状態に入り、すでにスト権も確立された段階で前記福井県労働組合評議会において決議された方法により行われた新聞の不買運動は未だ違法というを得ない。もつとも右不買運動は戸別訪問による方法をも実施している点で、問題がないではないが、右戸別訪問は新聞購読の有無にかかわらず、無差別に前記ビラ及びはり札を配布するに止まるから、一般公衆を相手とする不買運動の範囲内にあり、適法と解すべきである。また組合員中には、戸主の承諾なしに別紙(二)のようなはり札を貼付したり、戸別訪問の際多少の威圧を加えて新聞の購読を断らせたりしたものもないではなかつたことは前認定のとおりであるが、これ等は、組合の指令に違反してなされたもので、このような組合員の個々的行為についてまで組合幹部たる申請人等がその責任を負わねばならないものではない。

(四) 名誉毀損の点について

(1) 成立に争いのない乙第七号証の三、乙第一一号証の二、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第四五号証の一乃至六、証人岩永、前田の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、組合は、同年七月上旬から、福井市内において本件各解雇に至るまで、例えば、別紙(三)記載のような内容のビラを撒いたこと、同月一七日頃、被申請会社社長の私宅附近で、福井県労働組合評議会の宣伝カーのマイクを使用し、「会社編成局長青園謙三郎、同次長前田将男は、財界の有力者某氏の後押しで、組合員を挑発して、ストライキや不買運動をやらせ会社を窮地に追い込み、社長に詰め腹を切らせようとしている。」等と放送したこと、前記ビラ記載中「会社は組合活動家四〇名の首切り」「会社は警察や裁判所と結託した」の部分等、及び、右放送内容は事実無根であること、右行為は申請人等が指導実行したことが認められる。

右認定を覆すに足る疎明資料はない。

(2) しかして、組合がその要求や主張を訴えるために街頭等において、ビラを撒いたり、マイクで放送したりすること自体は正当なる組合活動として容認されるべきものではあるが、右に認定したように、事実無根の内容をもつて、右行為をすることは正当なる組合活動の範囲を逸脱した違法な行為といわなければならない。

二  不当労働行為の意思

(一)  被申請会社には、すでに認定した事実中にも、次のような組合の存在を嫌悪していると推認される事実がある。

(1) 昭和四〇年六月二一日、同月一五日には、いつたん承諾していた組合主張の夏季一時金の配分方法を撤回して、かねて組合が反対していた全額査定制による配分方法を主張したこと。

(2) 同年七月一日従業員の適正人員計測の実験という口実のもとに、夏季一時金斗争における組合の力を弱めるために、申請人滝を始め、主要な組合活動家を含む組合員三〇名に対し第一次自宅待機命令を発すると同時に、組合事務所の明渡請求をしたこと。

(3) 同日夕方頃からいわゆる第二組合を結成させるために一部従業員に便宜援助を与えたこと。

(二)  被申請人には、右以外にも、左のような組合の存在を嫌悪していると推認される事実が認められる。

(1) 成立に争いのない甲第二五、二六号証によると、被申請人は、同年七月一一日から一三日の間に、それまで組合に使用を許していた掲示板上の掲示物を無断で撤去した上、掲示お断り(使用禁止)と記載したビラを貼つたことが認められる。

(2) 成立に争いのない甲第二九号証、第三〇号証の一、二、証人岩永の証言を総合すると、組合が、同月一五日、福井地方労働委員会に斡旋申請をしたところ、同委員会は、組合及び被申請人に対し、別紙(四)記載のような主として組合側を譲歩させた内容の勧告案を提示し、組合はこれを受諾したが、被申請人は、組合が、昭和四五年におけるいわゆる安保改定時における民主連合政府の樹立を目標として、本件斗争をしているものであるから、一時的解決に適さないという理由によつて、右勧告案を拒否したことが認められる。

(3) 成立に争いのない甲第三一、三二号証及び証人岩永の証言によれば、被申請人は、組合員二三名に対し、第一次自宅待機命令と同趣旨の業務命令(以下第二次自宅待機命令という)を発したこと、右第二次自宅待機命令により全組合員が自宅待機命令を受けたことになること、他方、組合を脱退し、いわゆる第二組合に加入した者については、自宅待機命令は解除されたこと。

(4) 証人岩永の証言及び申請人小木曾本人尋問の結果によれば、組合は、当裁判所に対し、第一次自宅待機命令、第二次自宅待機命令の不当を争う旨の仮処分申請をし、その第一回口頭弁論が、同年八月二〇日に開かれることになつたところ、その前日である一九日に、全員に対し、自宅待機命令を解除し翌二〇日出社した組合員全員を五〇四号室に集め、全組合員に対し、被申請会社の局長以上の職制が会談して、反省の色がない者は職場に入れないという方針を明らかにしたことが認められる。

(5) 成立に争いのない甲第二〇号証の一乃至七、証人岩永、田畑の各証言によれば、同年七月一日以降、組合は、文書により七回、その他電話等により数回の団体交渉開催の申し入れをしたが、被申請人は、右自宅待機命令を解いた八月二〇日までこれを拒告しつづけたことが認められる。

(6) 前記争いのない事実及び成立に争いのない甲第三三乃至四三号証、第五五号証、証人岩永の証言及び申請人小木曾本人尋問の結果によれば、被申請人は、同年八月二六日、申請人等及び当時組合の書記長であつた土久碇司の三名を、同年九月三日付で解雇、外組合員四七名を、同日付で無期限懲戒休職処分に処する旨の予告をなし、同月二四日、申請人小木曾及び前記土久を解雇、組合員五名を無期限懲戒休職、組合員三名を三箇月間の懲戒休職に各処し、同年一一月二一日、申請人滝を解雇、組合員二四名を無期限懲戒休職、組合員一四名を三箇月間の懲戒休職に各処したことが認められるところ、成立に争いのない甲第四七号証、第四八号証の一、二、第四九号証、申請人小木曾本人尋問の結果成立が認められる甲第五〇号証の一、二、及び申請人小木曾本人尋問の結果を総合すると、被申請人と組合は、昭和四一年一月六日、右被処分者の今後の取扱について、別紙(五)記載のような内容の協定書面に合意調印したが、被申請会社は、右協定に基づき、同年二月一五日一五名、同年三月一日二九名を就労させはしたが、新に販売推進部なる新聞購読者の拡張を仕事の内容とする部を設立して右組合員中四三名を原職が記者、営業、庶務、美術、印刷等の者等であるにもかかわらず、これらの職種についてはなんらの考慮を払うことなく、一切無差別に一率に県下十数個所に分散勤務させ、右新設の販売部員としてその任に当らせ、残りの一名は記者として、和泉村に一人勤務を命じたので、大部分の組合員は或いは組合を脱退し、或いは退社していつたことが認められる。

(三)  以上の事実が認められ、これを覆するに足りる疎明はないから、これらの事実によれば、被申請人は、組合の存在及び活動を著しく嫌悪していたものと推認される。

三  不当労働行為

右認定によれば、申請人小木曾は、前記素行不良の点、新聞発送阻止の点、及び名誉毀損の点について、申請人滝は前記新聞発送阻止の点、及び名誉毀損の点につき、被申請会社にその責任を負わなければならないものであるが、同小木曾の素行不良の点はそれ程重大なものではなく、前記新聞発送阻止の点及び名誉毀損の点は、被申請会社が、昭和四〇年七月一日、夏季一時金斗争における組合の力を弱めるために組合活動家三〇名に対し自宅待機命令を発し、同日、一部従業員を煽動していわゆる第二組合を結成させるなどの不信行為を行つた結果に基因する争議行為の行き過ぎにすぎないものであること及び前記二に記載した被申請会社の組合嫌悪の意思を総合すると、結局、被申請会社が、申請人等の正当なる組合活動を嫌悪したことが本件各解雇の決定的理由となつているものと推認するに充分である。従つて、本件各解雇は、いわゆる不当労働行為に該当し公序に反し無効である。

第三仮処分の必要性

しかして、申請人滝の賃金が月額四五、八〇〇円、申請人小木曾の賃金が月額二二、七〇〇円であることは当事者間に争いがないところ、申請人等は、いずれも資産はなく、被申請会社から受ける右賃金をもつてその生活を維持してきた労働者で、その支払を受けられないときは、生活に窮することは、弁論の全趣旨に照し明らかである。

第四結論

以上の次第で、申請人等の申請は理由があるから、保証を立てさせないで全部これを認容し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 天野正義 菅原晴郎 多田周弘)

(別紙(一))

“福井新聞”を読まない運動に協力下さい。

県民のみなさん

本県唯一の地方紙であり県民世論の代表を以つて認じている福井新聞の会社ではいま争議が起きています。

四〇名の首を切ろうとする経営者

会社は六月二十八日突然解雇一名を含む三名の懲戒処分を通告してきました。

さらに七月一日には三十九名の自宅待機という首切りに連がる命令を出してきました。そして会社は法律を無視し会社のいうなりになる、第二組合をつくり正しい労働運動を弾圧してきています。

話し合いに応じない会社

組合はこれまで何回も話し合いをしようと会社に申し入れてきましたが会社は問答無用とばかり一切話し合いには応じません。私たちは会社が話し合いに応じないので地方労働委員会(労働問題の裁判所・福井新聞から公益委員が役員として出ている)に提訴しました。地方労働委員会は、会社は早く組合との話し合いに応じなさいという決定を下しました。

しかし会社はそれを無視しています。

社会党県本部国民運動委員長を不当逮捕

福井新聞経営者は警察権力と結託し日本社会党福井県本部田畑国民運動委員長を不当にも逮捕しました。

このねらいは福井新聞労働者の争議を失敗させるためであることは明らかです。この卑劣な福井新聞経営者と福井県警察の弾圧行為は県民に対する挑戦であり心からの怒りを感じます。

福井新聞不買運動に御協力を

わたしたち労働者が職場からほうり出されたり首を切られる状態では権利も生活もありません。このため止むを得ず福井新聞の不買運動を起しました。

わたしたちはこの不買運動により会社の猛省を促し一日も早くこの争議の解決をはかりたいと思つています。

みなさんの心からの御支援御協力をお願いします。

福井新聞労働組合

福井県労働組合評議会

福井新聞の購読中止について

住所     氏名

私は

月  日より福井新聞の購読を断ります。

追伸 右期日以降配達を受けた分についての料金支払には責任を持ちません。

福井新聞社販売部御中

……………………………………………………………切らずにおいてください。……………………………………………………………

新聞申込書

住所 氏名

私は

月    日より新聞の購読を申込ます。

中日、産経、北陸中日、朝日、

毎日、日本経済、読売

購読希望の新聞に○印を付して下さい。

(別紙(二))

福井新聞の購読を当分の間断ります。

氏名

尚購読を断ってから新聞を入れても代金は支払いません

(別紙(三))

県民のみなさんに訴えます。

福井新聞社はいま、真実の報道を守り労働者の生活と権利を守ろうとする福井新聞労働組合を、つぶそうとしています。このため新聞労連、県労評はじめ多くの仲間が福井新聞労組を支援し、経営者の危険な姿勢を正そうといつしよに戦つています。みなさん、新聞社の経営者だからといつて

新聞を私物化し、真実の報道をしなくてもよいでしようか。

労働者を簡単に首切つてもよいでしようか。

法を守らなくてもよいでしようか。

福井新聞社ではこのように労働者を、そして県民、読者をなめたことが平然として行われているのです。

そこで福井新聞労組は

1 会社は組合との話し合いに応じよ。

2 会社は誠意をもつて夏季一時金の回答をせよ。

3 会社は組合活動家ら四十人の首切りを撤回せよ。

4 会社は裁判所や県地方労働委員会の命令を守れ。

5 会社は警察や裁判所と結託した組合弾圧をやめよ。

6 会社は新聞紙面を私物化せず、真実の報道を守れ。

との要求をかかげて戦いを続けています。

この戦いの一つとして県労評は紛争解決までの間、福井新聞の購読を断わる運動を続けます。なにとぞ福井新聞労組支援の戦いにご理解、ご協力をお願いします。

昭和四十年八月

日本新聞労働組合連合

福井県労働組合評議会

(別紙(四))

勧告案

一 組合は直ちにスト態勢を解き、速かに職場に復帰し、企業経営に協力すること。

二 会社は右スト解除後二日以内に、組合員に対し左記基準により夏季一時金を支給すること。

会社が新組合に支給した平均額を同じ配分率により算出した額。

三 滝俊幸外二十五名に対する自宅待機命令撤回に関する問題、小木曾美和子外一名に対する懲戒通告の問題並びに現に係属乃至申立中の裁判事件及び不当労働行為救済申立事件等は、なるべく速かに労使協議の上、これを解決して早急に職場平和の回復を図り、企業の発展に邁進すること。

四 会社は新旧両組合を差別待遇せず、なお本紛争を理由として一切不利益取扱いをしないこと。

(別紙(五))

福井新聞争議解決調印書

一 滝俊幸、土久碇司、小木曾美和子の三名についての解雇問題は今後更に係争するものとする。

二 川野二高外四十三名の休職者の取扱いについては次のとおりとする。

(一) 有期休職者十三名についてはそれぞれの期日をまつて就労させる。

(二) 無期休職者は三月十日までに就労せしめる。

三 双方は、調印後直ちに本争議にからまる一切の行動を中止する。

四 会社側はそれぞれの就労者について本争議に基づく一切の差別待遇をしない。

昭和四十一年一月六日

株式会社福井新聞社

代表取締役社長 吉田弥

福井新聞労働組合

執行委員長 滝俊幸

日本新聞労働組合連合

財政部長 伊藤文彦

福井県労働組合評議会

会長 福岡三太郎

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